【第5回】鈴木 麻紀さん(アイティメディア @IT自分戦略研究所 編集(旧愛称:ばんちょ〜))
2015.11.26
コミュニティマネジメント成功の根底にはカウンセラーマインドがあった。 皆を見守り、実力を発揮出来る環境づくりを行う
アイティメディアのオルタナティブブログは、ループスの斉藤さんや、大手IT企業を経てベストセラー作家となった永井さん、クラウド界で注目の林雅之さん、あちこちで引っ張りだこのITビジネスアナリストの大元隆志さんなど、著名でなブロガーを多数生み出して来たブログプラットフォームです。数百人のブロガーをたった一人で取りまとめるという、いわゆる「コミュニティマネージャー」の役割をこなしてきたのが鈴木麻紀さんです。当時の愛称はばんちょ〜。実は、鈴木さん担当時にブログの更新頻度があがり、数多くの「著名ブロガー」が生まれました。一体どんなことをされていたのでしょうか?現在は@IT自分戦略研究所を担当されている鈴木さんにお話を伺いました。
マスコミ学科だったのに人事系の仕事に
成城大学マスコミ学科を卒業した鈴木さん。「マスコミってカッコいい。オシャレ!」という単にミーハーな気持ちで同学科を選んだものの、マスメディアへの就職は考えていませんでした。
大学卒業後、いくつかの職を経て、IT系の教育やコールセンター運営などを行う会社でコーディネーターを経験します。ここで、人事、採用の業務経験を積み、また数多くの理数系の人やエンジニアと接することになりました。
実は鈴木さんにはコーディネーターとして今でも心に残っている失敗体験がありました。技能だけを見てアサインした人が、仕事の大変さにつぶれてしまったのです。「その人は頑張り屋で、本人の『大丈夫です』という言葉を過信してしまったんです。『もう誰も潰さないぞ』と思い、この世界にどっぷり漬かろうと決意しました」これがキャリアカウンセラーの資格取得にもつながりました。「社内には相談する相手もいなかったので、自分の判断が正しいのか分かりませんでした。そこで、系統だてて勉強したいと思いました」
この資格取得のために土日を利用して半年間通学をした鈴木さんは「1対1のキャリアカウンセリングにとどまらず、もっと多くの働く人の力になりたい」という思いが強くなりました。様々な進路を模索する中、「上から制度を変えるのではなく、実際に働いている人の意識から変えていこう」と思い、@IT(現アイティメディア)の門を叩きました。それが2004年の事です。
その後、技術系転職支援サービスのプロダクト担当を経て、オルタナティブブログの運営を担当します。
「前任者が記者との掛け持ちで手が回りきらない部分があったため、担当を引き継いだときは、先送りになっていた問題が山積でした」
専任で運営を任された鈴木さん。「私は力でねじ伏せるタイプです。圧倒的な力、この場合は圧倒的な丁寧さでブロガーの信頼を勝ち取ることにしました。長時間働くのは平気なので、体力勝負でしたね。オルタナティブブログの前に運営を担当していたサービスでは対象が顔の見えない一般の方だったので、『問い合わせは、寝かせれば寝かせるほど悪化する』ということを学びました。24時間以内の返信、48時間以内の解決を目標にしていました。これをブログポータル運営にも適用しました」と、ブロガーからの意見やあがってきた問題点をどんどん拾い上げて改善して行きました。「ネットの向こうにいる皆さんが書きやすい状況を作る」ことに専念したそうです。その際に鈴木さんが心がけたのは
- 中立にたつこと/全員と平等に接すること
- 見守ること、口出しはしないけれど、何かあったらすぐ手を差し伸べられるようにつねに状況を把握し、スタンバイしていること
でした。
まさにカウンセラーの視点といえそうです。
折しも鈴木さんが運営を担当していた頃は「ブログ全盛期」。まだキュレーションメディアも登場する前でした。鈴木さんの献身のサポートであっという間に急成長したオルタナティブブログ。
「時代の後押しもあったと思いますが数々のオルタナブロガーが注目を集めるようになりましたね」
確かにこの時期、鈴木さんの陰での支えが功を奏して、多くのブロガーが頻繁に記事を更新し、どんどん知名度を獲得し、活躍の場を広げていったことは記憶に新しい所です。鈴木さん自身は、ブロガーがブログ執筆を通じて何かを実現して行くのを見守り、ブロガーのコンテンツが、必要としている読者が必要としているときに役立つよう願っていました。
鈴木さんは、2年前に@ITの自分戦略研究所の編集担当となりました。「自律的な人生設計支援」をテーマに、サイト全体の企画を立てて、それにそった記事の企画を立て、専門家に執筆を依頼してそれを編集、たまにご自身も取材、執筆ということをしています。担当はほぼ1人です。今は記事を通して読者に気付きを提供することで、キャリアカウンセリング的な役割をしています。
「Webは雑誌とは違って掲載したとき以降も検索経由で読みにくる人が多いので、必要としている人が必要としているときに役にたてるんです。記事の『公開』ボタンを押すときはいつも心の中で「いつか誰かの役に立ちますように」「届け、届け」と念じているんです」
「取材して欲しい」とたくさんの売り込みがあります・・・
実は「書いて欲しい」という売り込みはたくさんあるとのこと。しかし、優先順位などを考えると、セミナー取材などの話は断らざるを得ないこと多いそうです。「取材に行くと、移動の時間を含め結構な時間がとられます。特別な『何か』がないと、記者1人を動かすことは難しいんですよね。どこのメディアもハードル高いと思います」
また「話したい事があるので、私を取材してください」という連絡もたくさん来るそうです。でもその内容を聞くと、他の人や会社もやっていることだったり、宣伝だったりすることも多いそうです。「その人が話したいこと=読者が知りたいことではありません。読者に伝える『理由』が無いと、記事には出来ないのです」
「でも、中には伝えるに値する『何か』を持っている方もいらっしゃいます。そういう方には、@ITやオルタナティブブログのようなところに寄稿しませんか?と勧める事もあるのですが『書くのは苦手。しゃべるから記事にして』と言われたりすると、伝えるための労を惜しんでいるように感じてガッカリします」とのことです。実は売り込んで来た中から取材先を決めるのではなく、ネット、本、人との情報交換の中から面白そうな会社や人を選んでアタックすることが大半だそうです。
また「内容を事前に明かさない打ち合わせは困ります」とのこと。
「『詳しくは当日に』と言われていざ逢ってみたら私の担当分野とはまったく関係のない話だったり、そもそも何を話したいのかまとまっていないことさえあります。『とりあえず情報交換、とりあえず打ち合わせ』、と言われたら、その話は重要度が分からないので後回しになります。確かにネタは会った時に開示したいという気持ちも分からなくはないですが、アジェンダレベルの開示は必要だと思います。会議だって先にアジェンダがわかれば事前に案を用意したり、他の関係者を招集したり出来ます」
このあたりは企業の広報担当の方にも参考になりそうですね。
カウンセラーの軸を大事に今の場所で頑張る
今後の鈴木さんの活動ですが「インターネットメディアにしても、女性の働き方にしても先例がないので、まだわからないんですよね。今は出来る限りのことを、今いる場所で頑張ります。その中から今後やる事を見つけて行きたいですね。とはいえ、根本にある『カウンセラー』の軸は守って行きたいので、Webメディアの編集をずっと続けているかはわかりませんが、何等かの形でカウンセリングをしていると思います。オルタナティブブログも私にとってはカウンセリングの一種でした」
鈴木さんは続けます。
「今、企業でも、ソーシャルメディアでの情報発信でも、意思さえあればチャレンジしやすくなりました。社内で日の目を浴びていなかった人がブログでブレイクして、外から脚光を浴び、社内でもその存在が無視出来なくなり社内で希望の仕事につけるようになったという例もあります。同じ事は誰でもできるはずなので『なぜやらないの?』と言いたいです」
鈴木さん(というか、旧ばんちょ〜さん)、貴重なお話をありがとうございました。